植物病原菌の出現、進化および多様性形成の過程を明らかにするため、菌の病原性を支配するCD染色体、すなわち"病原性染色体"の由来、形成過程さらには拡散(水平移動)の分子機解明を目指した。トマトアルターナリア茎枯病菌(Alternaria alternata tomato pathotype)におけるAAL毒素生合成を支配するALTクラスターは、PKS遺伝子(ALT1)を含む約13遺伝子群から構成されており、茎枯病菌のみが保有する1.0Mb CD染色体に座乗している。茎枯病菌株におけるPFGE核型分析の結果、本菌のCD染色体は、菌株の由来には関わらず全て共通サイズを示した。CD染色体および他の主要染色体(E染色体)上の遺伝子に関して、分子系統学的解析を行った。その結果、各菌株のCD染色体に座乗するALT1の塩基配列はすべて同一であったのに対し、E染色体上の遺伝子では菌株間で差異がみられた。またテロメアfingerprinting解析の結果、各菌株間において多型が認められた。これらの結果から、茎枯病菌CD染色体の遺伝的バックグラウンドは他の染色体群とは異なっていると考えられた。さらに、茎枯病菌と他のA. alternata菌株間における細胞融合により得られたハイブリッド株の解析結果から、茎枯病菌由来のCD染色体が菌株間で選択的に移行および保持されることが明らかとなった。本研究を通して、病原性菌が共通して保有する小型染色体が、菌の生存などには関与しないが、病原性など特定の形質を支配するCD染色体であり、"病原性染色体"であることを証明した。菌の病原性が、染色体レベルにおけるダイナミックなゲノム構造の変動に由来する可能性は、寄生性の進化を考える上で極めて興味深いと思われる。
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