研究概要 |
ポティウイルスに対する劣性抵抗遺伝子として、宿主植物の翻訳開始因子eIF4E遺伝子ファミリーが知られている。これまでに我々は、カブモザイクウイルス(TuMV)のVPgがシロイヌナズナのeIF(iso)4Eと結合し、その結合を介してeIF(iso)4Fとの三者複合体を形成することを明らかとし、VPgのウイルスゲノムRNAの翻訳開始への直接的な関与の可能性を指摘した(Miyoshi, et. al., Biochime, 2006)。 次に、蛍光滴定法によって詳細に物理化学的な解析を行った。その結果、VPgとeIF(iso)4Fとの結合がウイルスゲノムRNAのIRESと宿主の翻訳開始因子との結合を安定化していることを明らかにした。この結果に基づいて、VPgとeIF(iso)4Eとの結合が宿主植物の翻訳開始因子複合体とウイルスゲノムRNA上のIRESとの結合の安定化に寄与している翻訳開始系のモデルを提案し(Khan, et. al., J. Biol, Chem, 2006)、さらにそのモデルを実証した(Khan, et. al., J. Biol. Chem., 2008)。 さらに、VPgによる宿主植物細胞の翻訳阻害の可能性について小麦胚芽無細胞翻訳系を用いて検討し、VPgの添加が翻訳効率を低下させることを見出した。一方、海外のグループはVPgのRNase活性を報告したが、我々の実験ではRNase活性は追認できず、翻訳阻害はVPgのRNase活性によるものではない。以上から、VPgによる宿主細胞nRNAの翻訳阻害は、VPgの翻訳開始因子への結合阻害によるものと考えられる(Miyoshi, et. al., Biochimie, in press)(平成19年度日本植物病理学会大会で報告)。 これらの報告によって、ポティウイルスのVPgが宿主植物への病原性因子として、宿主遺伝子翻訳抑制だけではなく、ウイルス遺伝子の翻訳活性化に関与して作用していることを明らかとした。
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