研究概要 |
植物ウイルス感染拡大の分子機構を明らかにすることは,植物ウイルス病防除戦略の確立に重要である.これまでに,カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の多機能性封入体蛋白質(Tav)がCaMVの感染拡大に重要な役割を果たすことを明らかにした.本研究では,Tav変異体の弱毒性を抑圧する宿主変異体を単離し,感染拡大抑制機能に関わる宿主遺伝子を同定することを目的とする.本年度は、平成18年度から進めているエチルメタンスルホン酸誘発突然変異アラビドプシス(Col)M2集団のスクリーニングを継続し、全身感染能がほぼ完全に失ったTav欠失変異CaMV(TavD23-CaMV)に全身感染を許容する宿主変異体を得た。全身感染能の著しく低下したTav欠失変異CaMV(TavD2-CaMV)の接種による第一次スクリーニングにおいて上位ロゼット葉におけるウイルスの蓄積をティッシュプリンティング法によって検討した。これまでに約3100個体のM2集団から56の上位ロゼット葉に感染が広がった個体を選抜し,それらの自殖後代について組織化学的検出法を用いた第二次スクリーニングを行った。各系統8〜9個体にTavD2-CaMVを接種し、全ロゼット葉をハンマーブロッティング免疫染色法によって解析したところ、25系統で75%以上の個体の全身感染が認められたが、その感染程度は系統によって異なり、上位葉への高率での感染拡大が認められた系統は11系統であった。そのうち1系統、F12では明確な病徴が観察された。F12は全身感染能がほぼ完全に失ったTavD23-CaMVによる全身感染を許容し、この性質は劣性遺伝することがわかった。以上の結果から、F12変異はTavD23-CaMVによる全身感染を抑制する遺伝子の変異であり、その原因遺伝子は野生型ウイルスでは抑制されている感染拡大抑制能を担うものと考えられる。
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