斑点米カメムシの最重要種、アカヒゲホソミドリカスミカメはイネの出穂に伴い水田に侵入するが、その侵入メカニズムは不明であった。昨年度までの研究で、イネの本種への誘引性はイネ生育段階により変化し、開花期穂の香気が雌成虫を強く誘引することを明らかにした。さらに、開花期穂からの放出量が特に多いβ-カリオフィレンを誘引因子の一つと特定したが、本物質は雌にのみ誘引性を示し、雄には誘引性を全く示さなかった。本年度は同じく主要香気成分の一つ、β-エレメンの誘引効果を調査したが、本物質は誘引効果を示さず、β-カリオフィレンに添加すると逆に誘引性を抑制した。そこで開花期穂主要香気成分5種(上記2種+安息香酸メチル+n-デカナール+ゲラニルアセトン)、6種(5種+サリチル酸メチル)、7種(6種+n-トリデセン)、8種(7種+(Z)-ツヨプセン)、9種(8種+2-ヘプタノン)、10種(9種+d-リモネン)混合物の効果を調査した。7種混合物のみが雌成虫を有意に誘引し、雄成虫にも誘引傾向を示した。このことからn-トリデセンも誘引に関与していることが明らかになった。また、8種混合物には誘引性がなかったことから、(Z)-ツヨプセンは誘引に抑制的に働くことが示された。上記7種混合物から安息香酸メチルを除くと誘引性が消失することも示され、安息香酸メチルも誘引に関与していることが明らかになった。以上の結果から、開花期穂の本種誘引性にはβ-カリオフィレン、n-トリデセン、安息香酸メチルの少なくとも3物質が関与していることが明らかになった。これら3物質は開花期のイネ穂で放出量が特に多くなることから、イネが開花すると穂からこれらの物質が放出され、それにより本種は水田内に侵入することが明らかになった。この知見は、本種の水田内侵入メカニズムを利用した新たなモニタリングトラップの開発に、また、効率的な防除対策の立案に繋がることが期待できる。
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