吸血はマダニ類の産卵に不可欠である。マダニにおいて、卵黄タンプク質Vitellogenin (Vg)は吸血により放出された脂肪体刺激因子によって活性化された脂肪体で合成され、その因子は脱皮ホルモンEcdysteroidだと考えられている。我々の研究から、マダニOrnithodoros moubataの交尾雌においては、吸血後のEcdysteroidの急激な上昇がVg合成、卵成熟および産卵に関与することは分かっていたが、その分子作用については明らかになっていない。そこで我々はマダニにおけるEcdysteroidの作用を明らかにするため、マダニの交尾・未交尾雌を用いてEcdysteroidreceptor (EcR)およびRetinoid X receptor (RXR)の発現を比較した。マダニのEcR (OmEcRA) は昆虫よりも節足動物のEcRと相同が高く、RXR (OnRXR)でも昆虫のRXR(一部昆虫においてはUSP)より他のダニや甲殻類と高い相同性を示した。OmEcR、OmRXRは吸血後のEcdysteroidの上昇時期と一致し、Vg合成と卵の成熟以前に発現していた。また、交尾・未交尾雌では差異が見られた。未交尾雌は交尾雌よりもEcdysteroidが低く、おそらくそれによってVg濃度が低く、卵成熟も起こらない。興味深いことに、交尾雌よりも未交尾雌の方がOmRXRの発現は高かった。この現象についてはさらにその意味を明らかにしてゆく必要がある。しかし、今回の研究によってEcdysteroid/EcR/RXR復合体は、マダニの卵形成においても重要な役割を果たしていることが示唆された。
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