アトボシキタドロバチヤドリコナダニの生活史について既存のデータ及び飼育結果から解析を行った。ヤドリコナダニは、ホストであるアトボシキタドロバチが産卵〜営巣中に育房内に侵入し、2日以内に第三若虫に脱皮する。第三若虫はホストの餌であるキバガ幼虫の体液を吸って発育し、成虫となる。成虫は直ちに交尾するが、交尾を行わなかったメスは卵胎生で息子(幼虫)を産下し、成虫となったこの小型雄と交尾して産卵を開始する。産卵はホストの発育とほぼ厳密に同調しており、成虫が幼虫の段階で死亡した場合は、成虫となったダニは産卵せずに死亡する。また、成虫にホストである幼虫を与えずキバガの幼虫のみを与えても、(死亡しないが)産卵を行わなかった。これらのことから、ダニはホストの発育による生理的な変化によって生活史を同調させていることが強く示唆された。 ホストの育房に入るダニの数は、アトボシキタドロバチでは平均7頭程度だったが、アジアキタドロバチでは、11頭程度であった。このことは、アカリナリウムの出口の大きさに関連しているかもしれない。アジアキタドロバチも、アトボシキタドロバチとほぼ同じ生活史を示すことが明らかとなった。しかしながら、まだsmall maleは発見されていない。ホストの羽化と第二若虫の出現はアトボシキタドロバチとダニと同様、強く同調しており、ダニは、脱皮中のホストのアカリナリウムに殺到した。ホストの雌雄にかかわらず同様の現象が認められた。ダニのセルへの侵入数は平均的にやや多かったものの、ホストの発育に対する負の影響は認められなかった。アトボシキタドロバチヤドリコナダニでも最大侵入数は20頭程度であることから、11頭程度の侵入巣ではホストへの影響は顕在化しないものと考えられる。 未記載種であったアジアキタドロバチを、Ensliniella asiaticaとして初記載した。このダニの第二若虫はキタドロバチヤドリコナダニ属の中では最も原始的であることが示唆されていた、E.kostyleviに近似していたが、第4脛節上ソレニジオンφが、より発達していることなどで形態的に区別することができた。またE.kostyleviのホストはAllodynerus rossiiのみであるのに対して、E.asiaticaのホストはアジアキタドロバチのみであり両者とも寄主特異的であることからも、容易に両者を識別することが可能であった。
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