研究概要 |
シダ植物のヘビノネゴザ(Athyrium yokoscense)とアブラナ科のスズシロソウ(Arabis flagellosa)は鉱山地域で群落を形成することが知られている.また,ヘビノネゴザはCd, Pb, Asに対して,スズシロソウはCd, Pb, Znに対して集積性を持つことが報告されている.しかし,両植物の金属集積メカニズムについては不明な点が多く残されている.そこで,本研究ではヘビノネゴザ・スズシロソウ群落における金属元素の動態を検討することにより,ヘビノネゴザ・スズシロソウ群落の根圏での重金属・ヒ素の可溶化と重金属・ヒ素集積メカニズムの解明を試みた.ポット試験において,生育期間の土壌溶液のCd,Pb,Zn濃度の推移は同様の傾向を示した.すなわち,Cd,Pb,Zn濃度はスズシロソウ区では無栽培区と差がなく,8週目まで上昇した後ほぼ一定となったが,ヘビノネゴザ区とヘビノネゴザ・スズシロソウ混植区では8週目以降も上昇しつづけた.このように,スズシロソウのみの区と比べ,ヘビノネゴザを含む二つの区の生育期間後半で土壌溶液のCd,Pb,Zn濃度が高く推移した.これらのことから,ヘビノネゴザの根圏において何らかの分泌物が放出され,固相のCd,Pb,Znが溶解したと推察される.As濃度はいずれの処理区においても27μgL-1以下と極めて低く,また生育期間が長くなるにつれて低下する傾向を示した.アニオンであるAsは低pHで土壌に強く吸着されるためと考えられる.一方,ヘビノネゴザ区の土壌溶液においてマレイン酸,クエン酸,フマル酸が,ヘビノネゴザ・スズシロソウ混植区においてクエン酸が検出された.以上のことから,ヘビノネゴザ・スズシロソウ根圏においてクエン酸などの低分子有機酸が分泌され,それによって固相の重金属が可溶化し,土壌溶液中の濃度を高めたと考えられる.
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