4月から10月の大気由来の窒素沈着量はアンモニウムイオンが32mmolcm^<-2>と硝酸イオンの5倍以上であった。このアンモニウムイオンは土壌中で硝化作用を受けて硝酸へと変化する際に生成される酸の量は堆積腐植層(O層)において61mmolcm^<-2>、0-10cm層において11mmolcm^<-2>であった。林齢50年(2006年)のスギ人工林である萩ノ沢試験地では林床植生や低木からなる下層植生が林齢30年の南斗内試験地よりも多く存在する。この下層植生の窒素収支に対する寄与を評価するため、これを刈取った刈取り区を設定した。刈取り区では下層植生による窒素吸収が無くなったことにより0-10cm層における硝酸イオンの溶脱量が増加した。その結果、刈取り区ではO層における酸生成量が50mmolcm^<-2>と対照区とほぼ同じであったものの、0-10cm層で85mmolcm^<-2>と刈取りをしていない対照区に比べて多かった。これに伴い、風化の指標となるケイ酸の移動量も刈取り区の0-10cm層において30mmolm^<-2>と対照区の3倍多かった。 また、O層の交換性塩基量について毎月1回Oi層、Oe層、Oa層に分けて採取した結果、Oi層では次第に交換性カルシウム(Ca)含有量が増加することが示された。Oi層、Oe層、Oa層における全Ca含有量に大きな差は見られなかったが、Oi層、Oe層、Oa層の順に交換性Ca含有量が増加することが示された。加えて、Caと相関性の高いストロンチウムの同位体比(^<87>Sr/^<86>Sr)は、林外雨では0.7085であったが、林内雨からO層通過水までは0.7069前後、深さ10cmの土壌浸透水は0.7066であった。以上のことから、O層においては非交換性Caが交換性Caしたものが硝化により生成された酸の干渉に寄与し、土壌層では風化の寄与が示唆された。
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