重金属汚染土壌の浄化に用いる植物は、重金属耐性で高集積能が不可欠であり、その分子育種や利用技術開発には、生態学的特性や耐性機構の生理学的解析など基礎的な研究が重要である。 本研究では、-SH基を含有する各種重金属リガンドの植物体内における機能と役割を総合的に解析するため、-SH基合成の基点となる硫黄代謝系および重金属リガンドの生合成系と重金属の無害化機能の関係について、生理学的および分子生物学的な手法で解析した。 実験にはシロイヌナズナを用い、カドミウム処理に伴う硫黄代謝系および各重金属リガンドの生合成系に関与する酵素遺伝子13個の発現量とリガンド生成量について検討したところ、生育阻害が現れるカドミウム処理濃度で最も高発現している遺伝子は、フィトケラチン(PCs)合成酵素遺伝子(PCS1)であったが、リガンドの主要構成成分であるシステイン(Cys)の合成酵素遺伝子(OAS)の発現は、カドミウム処理直後の微増以外は殆ど変化しなかった。このことは、PCSIが高発現しても同時にCys含量が増加しないとPCs含量が増えないためCdを無害化できないことを示唆していると考え、Cys合成能を強化した形質転換体を作成して同様の検討を行ったところ、PCS1遺伝子の高発現と同時にPCs含量が増加し、カドミウムによる生育抑制が顕著に軽減された。以上の結果から、植物のカドミウム無害化機構にはPCsが大きな役割を果たし、その生合成系はCysによって制御されるという新知見が証明できた。
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