【目的】アミノ酸生産菌Corynebacterium glutamicumは、生育に酸素を要求する好気性細菌である。分類学上、硝酸還元能・陽性とあり、硝酸代謝系を有すると考えられるが、その酵素学的および遺伝学的研究はなく、硝酸代謝の詳細は明らかでない。今回、C.glutamicumの酸素要求特性を硝酸代謝との関連から検討した。 【結果と考察】酸素濃度を大気レベル(21%)から0%まで段階的に減らすと、野生株は酸素濃度の低下に伴い徐々に生育が弱まり、0.5%濃度付近にコロニー形成の限界があることがわかった。一方、硝酸が微量(0.1%)存在すると、無酸素環境でも弱いながら生育できるようになり、本菌は酸素の代わりに硝酸を電子の受容体とする、いわゆる硝酸呼吸を行えることがわかった。アスパラギン酸系列やグルタミン酸系列のアミノ酸生産菌を、硝酸を微量添加した寒天培地で培養すると、無酸素環境下でもアミノ酸生成が起こることをバイオアッセイで認めた。本菌のゲノムには硝酸還元系遺伝子のホモログ(narK2GHJI)が見いだされた。各遺伝子産物の推定機能に基づいて3種の鍵遺伝子(硝酸還元に関わるnarGとnarJ、および硝酸輸送に関わるnarK2)を選択し、野生株から各々を欠失させた変異株を造成した。narGとnarJの欠失株はともに硝酸還元活性と同時に硝酸依存の嫌気生育能を消失していた。narK2の欠失株は硝酸還元活性を保持していたが、硝酸依存の嫌気生育能は損なわれていた。以上より、本菌の硝酸呼吸能は同領域のみに担われていると結論した。なお、酸素と硝酸が共存する環境では酸素呼吸を優先し、酸素が消失して初めて硝酸呼吸が始まることも見出した。しかし、その仕組みについては不明である。
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