糸状菌におけるデンプン分解酵素遺伝子群の転写活性化因子AmyRは、誘導物質イソマルトース依存的に細胞質から核へ移行する。AmyRは他のタンパク性因子と高次複合体を形成しており、誘導条件下でAmyR複合体の分子量が低下するとともに、Ser/Thr残基がリン酸化される。そこで、非誘導条件下ではAmyRの核移行シグナルが複合体形成によりマスクされており、イソマルトース誘導条件下で複合体サブユニットの一部が解離し、核移行シグナルが露出するという作業仮説のもと、AmyR複合体の解析とAmyRのリン酸化の役割について検討を行った。 1)AmyR複合体の解析AmyR複合体の構成サブユニットを同定するため、A.nidulans由来の強力なプロモーターであるalcApを用いてGST融合AmyRをA nidulRnsで高生産した。グルタチオンセファロースを用いて精製を試みたが、本レジンへの結合は見られなかった。そこで、同様な手法によりHisタグ融合AmyRを高生産し、ニッケルレジンを用いて部分精製した。EMSAを用いて解析を行ったところ、この部分精製His-AmyRは複合体を形成していないことが明らかとなった。より温和な条件で精製する必要があると考えられる。 2)AmyRのリン酸化の役割AmyRのリン酸化と核移行との関連を明らかにするため、リン酸化部位の大まかな位置決定を行った。様々な長さでC末を欠損したGFP融合AmyRについてリン酸化の有無を解析した結果、C末側のMH3、MH4と命名したドメインがリン酸化されていると考えられた。そこで、MH3内に6箇所、MH4内に2箇所に存在する推定リン酸化部位を、それぞれアラニン置換したGFP融合変異AmyR遺伝子をA.nidulsで発現させ、誘導的核移行に与える変異の影響を観察した。その結果、MH3、MH4それぞれについて、1箇所の推定リン酸化部位の変異により、核局在化能が失われた。以上から、リン酸化が核移行に関与している可能性が示された。
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