研究概要 |
化膿性溶血型連鎖球菌(Streptococcus属)由来のヒアルロン酸リアーゼ(HLY)は、宿主細胞外マトリクスであるグリコサミノグリカン(GAG)を不飽和オリゴ糖に分解し、菌の侵入に重要な役割を示すと考えられている。これまでに、Bacillus属細菌GL1株においてHLYホモログであるキサンタンリアーゼXLY及びGAG不飽和オリゴ糖を分解する新規酵素(不飽和グルクロニルヒドロラーゼ,UGL)を対象に、それらの構造と機能を解析している。本研究では、連鎖球菌における宿主細胞への侵入・感染機構を解明するため、GAG分解系酵素の構造・機能相関を明らかにした。 1.XLY-基質複合体の構造解析及び部位特異的変異解析により、HLYとXLYに共通する触媒反応機構を見出した。 Tyr一残基が、基質ウロン酸のC5位からプロトンを引き抜き、グリコシド結合にプロトンを供与する。 2.UGL-基質複合体の構造解析及び部位特異的変異解析により、従来の糖質加水分解酵素とは異なるUGLの新規な触媒反応機構を明らかにした。UGLは、基質不飽和ウロン酸のビニルエーテル結合を水和することにより触媒反応を開始する。 3.UGLと相同性を示す機能不明タンパク質が、種々の連鎖球菌ゲノムにコードされていることを見出した。大腸菌で発現させた連鎖球菌(S. agalactiae, S. pneumoniae, S. pyogenes)由来UGLホモログは、多糖リアーゼ反応により生じたGAG(コンドロイチン、ヒアルロン酸)不飽和2糖を単糖に分解した。これは、連鎖球菌においてHLYとUGLが協働して宿主細胞外マトリクスを分解することを示す。また、連鎖球菌UGLはBacillus由来UGLと異なり硫酸化GAG不飽和糖にも作用するため、この広い基質特異性が連鎖球菌の感染を容易にすることが示唆された。
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