本研究の結果、Bacillus sp.JF8のナフタレン代謝酵素遺伝子群は、上流経路に必要な酵素遺伝子がオペロン上に全てそろっておらず(NahAc、NahAd、NahBのみ)、下流経路においても必要な酵素遺伝子がそろっていないことが分かった(2-hydroxymuconic semialdehydeの変換酵素)。また、下流経路関連酵素遺伝子群に上流経路の酵素遺伝子であるnahCが含まれるなど、配置に未完成なところがあり、オペロン中の遺伝子の配置がまだ完了していない可能性が考えられた。 現在の芳香族化合物の代謝経路は、少なくとも三つのコンポーネントのmodular fusionによって進化してきたと考えられている。主モジュールはメタ開裂経路オペロンで、これが二つ目の遺伝子モジュール(サリチル酸やフェノールをカテコールに変換する)と融合し、いまでは下流経路を形成している。上流経路オペロンは、より後の段階で獲得された第三のモジュールと予想されている。最後に制御因子がゲノムから移動して、正しい発現ができるように修飾されたと考えられている。しかし、単離したナフタレン分解遺伝子群は、オペロン構造が不完全であり、これまでに報告されているものに比べ、未整理の状態であると考えられた。不完全なメタ開裂経路オペロンと不完全な上流経路オペロンであるが、これらはナフタレンで発現が誘導されることが確認されたため、制御因子もすでに存在していると考えられた。また、ナフタレンを炭素源として生育することができることから、ナフタレン代謝に必要な遺伝子は菌体内には揃っていることが示唆された。以上のことから、Bacillus sp.JF8のナフタレン代謝酵素遺伝子群は、これまで提唱されている代謝経路遺伝子群とは異なる進化の仕方をしてきた可能性が考えられた。
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