研究概要 |
本研究の目的は、バイオクロスリンク(タンパク質分子架橋)酵素である組織型トランスグルタミナーゼ(TG)の生理機能を多面的に解析することである。1.ラット肝抽出液で、TGの基質候補タンパク質としてarginase-I(AI)およびfructose 1,6-bisphosphatase(FBPase)を同定した。in vitro実験で、両者はともに、TGによるアミン導入あるいは脱アミドといった修飾を受けた。反応性グルタミン残基数は、サブユニット当たり、AIで3個、FBPaseで1個であった。アミン導入により両者の活性は、減少した。この結果は、TGが、AIやFBPaseの関与する代謝系を制御する可能性を示唆した。2.ヒト脳TGと相互作用するタンパク質を、酵母two-hybrid法により検索した結果、低分子量Gタンパク質である、Rinタンパク質およびRit様タンパク質が相互作用タンパク質候補として同定された。しかし、pull-downアッセイなどの方法では、TGとそれらタンパク質との相互作用は確認できなかった。3.ショウジョウバエをモデル生物としてTGの生理機能解析を試みた。ショウジョウバエTG(dTG)遺伝子に由来する2種類の転写産物dTG-RAおよびdTG-RBは、全発生段階において存在が確認された。発生開始期から全身でdTG発現を抑制すると蛹後期で致死となり、dTGの発生における重要性が示された。ハエの複眼原基でdTGを過剰発現させると、rough eye表現型が誘導された。このrough eye表現型は、JNKシグナル亢進によるアポトーシスに起因することが、示唆された。さらに翅原基でdTGを過剰発現するとextra wing veinの誘導が、発現抑制するとblistered wingの誘導が、それぞれ見られた。これらの結果は、dTGが翅脈形成に関与することを示唆した。
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