酵母S.cerevisiaeのチアミン生合成や取り込みに関与する酵素群(THI genes)の発現はチアミンが欠乏すると誘導される(THI調節系)。本調節系の細胞内シグナルはチアミンピロリン酸(TPP)であり、3種のタンパク質Thi2p、Thi3p、Pdc2pがTHI genesの発現に必要な調節因子として同定されている。Thi2pとPdc2pはDNA結合活性を持っことが示唆され、Thi3pはTPPセンサーとしての役割も持っている。また、Thi2pとThi3pは複合体を形成し、その相互作用はTPPによって減少する。一方、Pdc2pは解糖系酵素ピルビン酸デカルボキラーゼ遺伝子PDC1、PDC5の発現にも関与している。本研究では、各調節タンパク質の機能とそれに及ぼすTPPの影響を解析することで、酵母がチアミンに応答して転写制御するまでの情報伝達経路を決定することとを目的としている。 先ず、ADH1プロモーターを5'上流に配置したPDC1遺伝子を染色体に組み込ませることでPdc2p非依存的にPDC1を発現する株を予め作製し、次いでPDC2遺伝子を破壊した。このpdc2欠損株でのTHI2およびTHI3の発現誘導は消失することがプロモーター活性の測定で示された。しかし、pdc2破壊株でTHI2、THI3を同時に強制発現させても、THI調節系遺伝子であるPH03の酸性ボスファターゼ活性は誘導されなかった。また、two-hybrid法でThi3pはPdc2pとも結合することが検出された。その相互作用はThi3p-Thi2p間のそれよりも10倍強く、しかも培地のチアミンでより鋭敏に阻害された。また、pull-down法でもThi3pとPdc2pの結合を確認した。以上の結果より、これら3種の調節因子は複合体を形成して酵素遺伝子群の発現を誘導し、その相互作用はThi3pに結合したTPPによって阻害されることが示唆された。
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