植物は揮発性化合物の組成と量を媒体として生態系に語りかけている。植物はその周りの植物から放たれた揮発性化合物を知覚し、その中から情報を抽出し、予め防御体制を整えておくことが可能である(立ち聞き)。本研究では植物「立ち聞き」の分子機構全容の解明を目指し、申請者が「立ち聞き」への関与を証明したC6-化合物をターゲットとしてまず、受容体、あるいは受容機構の解明、活性化される信号伝達経路の解明を目的とする。また、「立ち聞き」の分子機構を基盤とした新発想に基づく植物化学調節物質のデザイン、あるいは生態系調節手法の開発を目指す。(1)受容体、あるいは受容機構の解明(a)レポーターアッセイ系の確立と応答の構造活性相関の確立(松井)C6-化合物で誘導されるカルコン合成酵素(CHS)等の遺伝子プロモーターにβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を融合したキメラ遺伝子を植物培養細胞に導入した。このレポーターアッセイ系を用いて揮発性化合物による応答を検討したところ表皮組織でその応答が著しいことが明らかとなった。(2)活性化される信号伝達経路の解明(a)揮発性化合物曝露後のレドックス状態の解析(小川、松井)植物がC6-化合物に曝されるとグルタチオン量などが変化し、遺伝子誘導を導くと考えられる。そこでHPLCにより総グルタチオン量、酸化型/還元型比を解析したが、その量、比に大きな変動は見られなかった。そこで揮発性化合物とグルタチオンのアダクトの定量を進めている。(b)細胞レドックス状態を制御する活性酸素種生成様式の解析(松井)C6-化合物が活性化する信号伝達経路はH_2O_2生成を伴うと考えられる。化学発光法(ルミノメーターを現有)によるH_2O_2定量では植物の状態によってH_2_2生成量が異なることが明らかとなった。現在H_2O_2生成と防御遺伝子誘導の相関付けを急いでいる。
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