植物は揮発性化合物の組成と量を媒体として生態系に語りかけている。植物はその周りの植物から放たれた揮発性化合物を知覚し、その中から情報を抽出し、予め防御体制を整えておくことが可能である(立ち聞き)。本研究では植物「立ち聞き」の分子機構全容の解明を目指し、申請者が「立ち聞き」への関与を証明したC6-化合物をターゲットとしてまず、受容体、あるいは受容機構の解明、活性化される信号伝達経路の解明を目的とする。また、「立ち聞き」の分子機構を基盤とした新発想に基づく植物化学調節物質のデザイン、あるいは生態系調節手法の開発を目指す。 19年度は植物が揮発性シグナルを受容した際に植物細胞内で遺伝子誘導へ至る信号伝達系の二次メッセンジャーの関与について検討した。揮発成分処理したシロイヌナズナ葉で過酸化水素が生成蓄積することをジアミノベンジジン染色により明らかにした。この過酸化水素生成にはNADPHオキシダーゼが部分的に関与していた。また、アポエクオリン発現シロイヌナズナを用いた検討により(E)-2-ヘキセナール処理した葉では細胞外カルシウムの流入が促進されることが示された。ただし、いずれの場合もこうした二次メッセンジャーの蓄積には比較的高濃度の揮発性化合物処理が必要であり、野外生態系での立ち聞き現象にこうした二次メッセンジャーが関与している可能性についてはより詳細な検討が必要である。一方、揮発性化合物処理したシロイヌナズナ葉で還元型グルタチオンが一過的に減少することが明らかとなった。ただ、この現象により応答反応が誘導される可能性については更に検討する必要がある。(E)-2-ヘキセナールなどの不飽和カルボニル化合物は生体内でグルタチオンと容易に反応してアダクトを作る。こうしたアダクト生成の寄与について検討するためHPLCを用いた簡便なグルタチオンアダクト検出システムを確立した。
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