これまで我々はビタミンK(K)の充足度の異なるモデル動物を作出し、各組織における遺伝子発現を網羅的に解析して、組織内におけるK類からメナキノン-4(MK-4)への変換の生理的意義の解明を試みてきた。その結果、Kが抗炎症作用を有すること、K欠乏時には精巣におけるテストステロン産生が減少することを明らかにしてきた。本研究では、抗炎症作用の分子機構の解明として、ヒト由来THP-1細胞を用いて解析を行った。また精巣中のMK-4がリポポリサッカライド(LPS)投与時のテストステロン産生減少に及ぼす影響を解析した。ヒトマクロファージ様細胞をLPSで処理した際に誘導されるインターロイキン-6(IL-6)の遺伝子発現量を指標として、Kの抗炎症効果の作用機序について解析を行った。K1、MK-4、ともに、LPS誘導のIL-6 mRNA上昇を抑制した。また、側鎖の長さの異なるK2同族体であるMK-3、MK-7によってもIL-6発現量が抑制された。一方、K類の側鎖構造体であるフィトール、ゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニルアセトンは、IL-6発現量を低下させなかった。このことから、KによるIL-6発現抑制作用は、Kのナフトキノン骨格によるものと推定された。次に、LPS投与時のテストステロン産生の減少を精巣中のK(ほとんどがMK-4)が抑制する可能性について解析を行った。ラットにK無添加飼料(K-free食)を与え、精巣中のK含量を低下させた。これらの動物にLPSを投与し、テストステロン産生に及ぼす影響について解析を行ったところ、コントロール食を与えた動物に比べ、K-free食を与えた動物ではテストステロン産生が有意に減少した。以上のことから、精巣中のKはLPS誘導の炎症シグナルを阻害し、テストステロン産生低下を抑制することが示唆された。
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