心的ストレスに伴う免疫機能の変調および宿主の感染抵抗力の低下に対する食餌性脂質構成脂肪酸組成の影響について検討した。本研究により、以下の3つの点を明らかにした。 (1)心的ストレス(隔絶飼育)によりマウスのリンパ球中のアラキドン酸の割合が低下したが、低下の程度はオリーブ油(主要脂肪酸:モノエン酸)を摂取すると増大し、逆に魚油(主要脂肪酸:n-3系高度不飽和酸)を摂取すると減少した。また、リンパ球の増殖能、サイトカイン産生能およびストレスホルモンに対する感受性が心的ストレスにより変調するが、変調の程度はオリーブ油を摂取すると増大し、逆に魚油を摂取すると軽減した。心的ストレスによる免疫機能の変調が、食餌性脂質構成脂防酸組成により影響を受けることを今回の研究で初めて明らかにした。 (2)DHAやEPAを特徴的に含む魚油の過剰摂取は、生体内脂質過酸化を促進させる。また心的ストレスによる生体内脂質過酸化の促進も近年、確認されている。これらの事実から、魚油の摂取と心的ストレスの組合せが生体内脂質過酸化をより促進させ、生体組織に悪影響をおよぼすことが懸念された。しかし予想に反して、この組合せは、心的ストレスを受けずに魚油を摂取した場合と比べて、生体内脂質過酸化の促進を軽減した。この現象は、心的ストレスに対する魚油の有益な影響と関連していることが示唆された。 (3)心的ストレスによる宿主の感染抵抗力の低下に対する食用油の改善効果について検討した。心的ストレスは、オリープ油を摂取したマウスの病原真菌Paracoccidioides brasiliensisに対する感染底抗力を、感染初期から中期にかけて低下させた。一方、大豆油を摂取したマウスでは、心的ストレスに伴う感染抵抗力の低下は生じなかった。また、心的ストレスは、オリーブ油摂取マウスで、炎症性サイトカインであるIL-6とP.brasiliensis感染症に対する主要な抗菌因子であるIFN-γの肝臓での産生量を感染初期に低下させた。一方、大豆油摂取マウスでは、心的ストレスにともなう肝臓中のIL-6とIFN-γ産生量の変動は生じなかった。IFN-γ産生が、心的ストレス下での宿主の感染抵抗力に関連していることが示唆された。
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