腸管粘膜表面を構成する一層の上皮細胞は栄養素の吸収あるいは生体防御にとって重要である。これらの機能を十全に発揮するためには古くなった細胞は速やかに除去され新しい細胞に置き換わる必要があるが、上皮細胞代謝のメカニズムはよくわかっていない。本研究では腸管に強く発現している膜結合性セリンプロテアーゼmembrane-type serine protease 1 (MT-SP1)およびグランザイムA (granzyme A; GrA)という2つの酵素が腸管上皮細胞のアポトーシスを誘導するという仮説をたて、それについての検証を試みた。MT-SP1は上皮細胞自身で、GrAは腸管上皮層に常在する上皮細胞間リンパ球で産生されている。平成18年度はGrAがラット正常腸管上皮細胞株IEC-6に対してアポトーシスを誘導するかどうかについて検討した。IEC-6をGrA存在下で培養したところ細胞の変型とそれに続く細胞の脱離が観察された。脱落していない細胞について、アポトーシスが誘導されているという証拠は得られなかった。しかしながら細胞、免疫担当細胞で産生されるプロテアーゼが上皮細胞の代謝(細胞剥落)に関わる可能性があることを示した(論文投稿中)。平成19年度はMT-SP1のIEC-6に対する作用を検討する実験を開始した。これまで動物細胞(COS-1、CHO細胞)を用いて組み替え型MT-SP1を作製してきたが、このものを培養細胞に添加するという実験を行うのに十分量は得られていなかった。そこで19年度は酵母Pichia Pastorisを用いてMT-SP1を作製することを試みた。動物細胞に比べて多量の組み替え酵素が得られたが、その活性は動物細胞で生産したものに比べて100倍程度低いものであった。以後は大腸菌で生産するかあるいは動物細胞の高発現株を取得する方向が考えられた。
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