プリオン病や、アルツハイマー病は、生体の持つ正常タンパク質がコンフォメーション変化を起こして病態を呈することから、コンフォメーション病と呼ばれる。これらに共通する特徴は、原因タンパク質が構造変化を起こし、別の分子とβシート構造を形成して重合することにより凝集体を形成することである。本研究では遺伝的分子異常等によりタンパク質凝集体を生じ、典型的なコンフォメーション病の原因となるセリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)と相同性の高い卵白タンパク質、オボアルブミンの分子重合プロセスを明らかにすることにより、病的な分子重合を抑制する方策の開発に資することを目的としている。 本年度は、オボアルブミン及び大腸菌により生産した組換え型オボアルブミンや変異体について、βアミロイド形成能を確認し、重合体形成時に核となる内在性配列の推定とその効果を検討した。オボアルブミンを加熱して得られる重合体は、β構造体の指標となる蛍光試薬ThioflavinTと結合し、透過型電子顕微鏡により観察すると、繊維状の構造を形成することが確認できた。大腸菌による組換え型オボアルブミンは、同様の条件で、卵白より調製したサンプルに比べ剛直な繊維を形成し、翻訳後修飾である糖鎖の付加が重合体の形態を左右することが分った。また、欧州分子生物学研究所で開発された重合体形成配列予測ソフト、TANGOにより核形成配列を予測したところ、2つの領域にβ構造による重合核の形成傾向があることが示唆された。両配列に相当するペプチドを合成し、オボアルブミンの加熱重合体形成に対する添加効果を調べたところ、一方のペプチドに重合体形成促進効果が見られ、その配列はセルピンが阻害活性を発揮する際に重要なシートの一部であると分った。これらのことから、オボアルブミンの重合体形成がセルピンのコンフォメーション病のモデルとして有効であることが示唆された。
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