ブナ林における豊作の到来は5〜7年に一度とされている。しかし、その間にも中規模な開花がみとめられる。中規模開花は、1)林分の個体が開花するが、それぞれの開花数が少ない場合か、2)特定の少数個体のみが大量に開花する場合かのいずれかが想定される。このどちらかであるかを確かめることは、豊凶現象進化の生態学的理解とともに、苗木の安定供給を通してブナ林の再生技術に貢献すると考えられるが、従来のシードトラップによる調査では個体ごとの解析ができなかった。しかし、ブナの枝には開花した雌花序の痕跡(雌花序痕)が残り、これが開花後5年程度は残存する。したがって、雌花序痕の痕跡を追跡することで、個体ごとの開花履歴の復元が可能である。この方法により、調査林分の過去の開花履歴を個体ごとに解析すると、1)豊作年に他個体と同調して開花する個体、2)大豊作年にのみ開花する個体、3)中規模開花年にも開花する個体、4)開花しない個体の4タイプに分類され、中規模開花年の実態は、その年に特異的に開花する少数の個体によって実現することが明らかになった。これらの個体は、豊作年にも開花するので、林分の中で開花頻度の高い個体と見なすことができる。中規模開花年に開花する個体は、並作年に結実する個体なので、これを認識できれば種子採取の効率が高まり、地元産の苗木の安定供給に資すると考えられる。 さらに、山形県の11林分における3年間の開花・結実データをもとに、ブナ林の豊凶予測手法を確立した。これによれば、山形のブナ林では350個/m^2以上の雌花の開花で豊作を迎え、これを1年前の枝採取により予測できることが確かめられた(花芽率が35%以上の場合に) この他、林分における種子散布の実生の発生には、齧歯類による種子捕食と積雪による保護効果が関係していることが示された。
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