ブナの豊作は5~7年に1度とされ、その進化的要因としては、虫害回避のための適応(捕食者飽食仮説)と理解されている。しかし、実際には結実年の間に中規模な開花がみとめられることが多い。このような開花は繁殖成功確率を低めるので、豊凶性進化の理解のみならず森林の更新作業方法にも影響を及ぼす。中規模開花は、1)林分全体の個体が同様に開花を起こす場合と、2)特定の個体が開花する場合が考えられる。このため、個体をベースの観察が必要となる。本研究において、枝に残る雌花序痕をもとに個体ごとの開花履歴を復元した結果、中規模開花は後者のパターンであることが分かった。こうした特定個体は、豊作年にも他と同調する傾向があることから、より頻繁に開花する個体と言える。このような個体は、資源的に余裕があると考えられ、サイズの大きな個体ほど開花回数が多い傾向がみとめられた。繁殖投資が成長へ負の影響を及ぼす結果として、豊作当年および2年後まで、シュート伸長量や葉サイズの減少が観察された。これらの知見をもとに、本研究においては、さらに、従来北海道のブナ林で開発された豊凶予測手法が東北のブナ林においても適用可能であるか検討した結果、東北のブナ林においてより当てはまりがよい豊凶予測手法を開発した。さらに、豊作年以降の種子散布量、実生発生、齧歯類による捕食を調べ、ブナの更新には、種子を保護する積雪が齧歯類からの捕食を防いで更新に貢献していることが示された。このことは、ブナが日本海側の豪雪地域でブナが優占する原因のひとつであると考えられた。種子の貯蔵については、気候的に太平洋側の要素の強い北海道の種子では10年間の貯蔵が可能であることが確認できたが、日本海側の種子では1年以上の貯蔵が困難であることが分かった。
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