研究概要 |
1.研究目的 絶滅危惧種マメナシの個体群構造、遺伝子流動を明らかにすることを目的として、(1)マメナシの自生個体群と孤立・分散分布する個体を合わせたマメナシ残存個体数を確定する。(2)マイクロサテライトDNA(SSR)マーカーを用いてマメナシ個体群の遺伝的構造を明らかにするとともに、自然交雑種子の遺伝子型を決定し、遺伝子流動の実態を解明する。(3)個体群の繁殖能力に大きな影響をもつ自家不和合性遺伝子(S-RNase)の遺伝変異を解析し、遺伝子流動に及ぼす影響を考察する。 2.材料と方法 (1)自生個体群、自生孤立個体および植栽個体の全てを調査対象とし、位置の測量、DNA分析用試料採集を行った。(2)栽培ナシの核SSRマーカー8座を用いて採集した全ての個体の遺伝子型を決定し、対立遺伝子数、ヘテロ接合度(Ho,He)および近交係数(Fis)を求めた。また、自生個体群を対象として、Neiの遺伝距離による系統樹を作成するとともに解析ソフトSTRUCTUREを用いて潜在的遺伝構造を解析した。(3)名古屋市および桑名市から選んだ24個体について、RT-PCRでS-RNaseのcDNAを増幅し塩基配列を決定した。 3.結果と考察 (1)現存するマメナシ全個体数を採集した結果445個体が得られた。(2)SSRマーカーによる対立遺伝子数は6〜19(平均13.75)でHo=0.587、He=0.689であった。またFis=0.145(5%水準で有意)で近親交配が進行している可能性が示唆された。分子系解析では、自生個体群では遺伝的分化が認められるが、植栽個体群を含めると遺伝的分化は不明瞭となった。また、STRUCTUREによる解析では自生個体群のみを対象とした場合には4個のグループに分割されるが、孤立個体や植栽個体を含めると10個のグループに分割され、開発による個体群の消滅や植栽による攪乱の影響が考察された。遺伝子流動については前年度凶作で種子が採集できなかったため実施していないが、平成19年秋に種子が採集できたので現在、種子を発芽させ遺伝子流動解析用の実生の育成を行っている。 (3)24個体から13種類の対立遺伝子が得られた。2個の対立遺伝子の片側しか増幅できなかった個体も含まれるため、調査した個体群には少なくとも13個以上の対立遺伝子が存在することが明らかになった。
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