絶滅危惧種マメナシの保全に必要な情報を得るため、マメナシ全個体の確認と生育状況の調査を行った結果、マメナシの個体数は465個体であり、愛知県と三重県にのみ分布していた。調査した全個体について核マイクロサテライトマーカー10座を用いて遺伝子型を決定し、個体群内の遺伝的多様性、個体群間の遺伝分化、少数、単木個体と近隣個体群との類縁関係を調査した。その結果、マメナシは種全体としての遺伝的多様性が維持されていたが、人為の加わった個体群を含めた場合には距離による分化が認められなかった。一方、自生の6個体群のみを対象とした場合には個体群間の遺伝構造は維持されていた。系統樹およびベイズクラスターモデルにより孤立木や少数個体を含めた遺伝構造を解析したところ、愛知県と三重県との二つの大きなクラスターに分かれることが明らかになった。 自家不和合性の原因遺伝子であるS-RNaseのcDNAの塩基配列を解析し、11個の異なる対立遺伝子を同定した。また、10個体群247個体を対象にallele-specific PCRによるS対立遺伝子の保有状況を調査した結果、各個体群における保有数が4個〜10個であることを明らかにした。また、個体群内の交雑情況を調査するため、三重県桑名市の多度個体群において4個体の母樹から採取した種子の花粉親を同定した。その結果、花粉親は調査地内の全域に存在していた。一般化線形混合モデル(GLMM)解析によって、花粉親としての貢献度に影響を及ぼす要因の評価をおこなった結果、個体間距離が最も大きな要因であることが明らかになった。S対立遺伝子を母樹と2つとも共有する個体からの交雑による種子の出現率は小さいため、自家不和合性は自然個体群内でも機能していると考えられたが、S対立遺伝子の共有度が遺伝子流動に及ぼす影響は大きくなかった。 本研究で得られた成果は、マメナシの保全計画の策定において貴重な情報となることが期待される。
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