トチノキの両性花は子房が3室に分かれ、胚珠は各室に2個ずつあるので、胚珠がすべて成熟した場合には、ひとつの果実に6個の種子が入る。実際にトチノキの種子はひとつの果実に1個の場合が多いが、時には2個まれに3個以上の種子が入っている。果実あたりの種子数にどのくらい変動があるか、京都大学芦生研究林のモンドリ谷16haとその周辺に生育するトチノキ、島根大学構内に植栽されたトチノキの結果を報告する。樹冠下に設置されたトラップ、あるいは地面に落下した種子と果実を採取し、種子の場合はその形状から果実のなかで何個入っていたかを判断した。種子が2個以上入っている場合、その果実を多胎果実とよび、個体が生産した果実全体に占める多胎果実の割合をもとめた。モンドリ谷の豊作年における多胎果実の割合は、測定数の少ない個体を除いた13個体で平均11%・標準偏差8%、範囲は3から29%であったのに対して、並作年には、多胎果実の割合は、11個体で平均8%、標準偏差6%、範囲は1から18%であった。隣接する小谷では、4個体の平均7%、標準偏差5%、範囲は3から15%であった。島根大学構内では、多胎果実の割合が40%の個体があったが、多胎果実をまったくつけなかった個体もあり、4個体の平均13%、標準偏差18%であった。種子が2個入った多胎果実の割合が高い個体では、種子が3個以上入った多胎果実の割合も高くなった。モンドリ谷の個体について、異なる年の多胎果実の割合の関係をみると、相関係数は正の値を示したが有意ではなく、個体によって多胎果実の割合は年ごとに変動するとみられた。
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