森林性野ネズミの貯食活動が樹木の更新や分布拡大に及ぼす影響を明らかにするために、マテバシイが優占する常緑広葉樹林で、野ネズミの生息状況と貯食活動、マテバシイのドングリの生産量、実生として定着するまでの死亡要因と死亡率について調査した。アカネズミとヒメネズミの個体数は、繁殖期直後の春に最大となり、秋まで減少し、その後再び増加するという季節変動を、毎年繰り返した。冬季の野ネズミの定住個体数とドングリ生産量の年変動とは、必ずしも一致しなかった。ドングリ生産は、3~4年周期で豊凶を繰り返した。しいな率は豊作年では凶作年より低かった。野ネズミにより運搬・貯食された地上に落下したドングリの割合は、イノシシなどの中・大型ほ乳類による捕食により変動した。野ネズミは平均10~50mドングリを運搬し、主として地中に貯食した。貯食されたドングリは、回収される度にさらに遠方に運搬された。貯食されたドングリの約40%は貯食者以外の野ネズミにより盗まれたが、その場合もより遠くへ運ばれた。1995年から2008年にかけて生産された14年分のドングリの実生として定着するまでの生命表をもとに、key factor解析を行った。実生定着までの死亡の年変動は、野ネズミによる捕食により決定されていた。総死亡と野ネズミによる捕食は密度逆依存的であった。14年間では、ドングリが豊作で、かつ野ネズミの生息数が少なかった1999年、2003年、2007年だけ野ネズミは種子散布者として樹木の更新に貢献し、それ以外の年は種子捕食者としての役割が大きかったことが明らかになった。
|