【背景】近年、主要な穀類や家畜類において、ゲノム配列情報と連鎖地図を組み合わせて有用形質のみを取り込んだ新系統を短期間でつくりだす分子育種法の実用化に向けた取り組みが開始されている。しかし、我が国の養殖対象魚類は多岐にわたり、そのすべてにおいてゲノム配列解読を進めることは現実的ではない。そうした中、申請者は、トラフグとメダカのゲノム構造(約108個の同祖遺伝子)を比較して、両者のゲノム構造が類似している可能性を見いだした。これが真実ならば、、トラフグと他のモデル魚類の全ゲノム構造を比較することにより、ブリ類、マダイ、ヒラメ類などの主要養殖魚のゲノム構造を高精度で推定できると考えられる。本年度は、トラフグの連鎖地図に含まれるゲノム配列を増やし、トラフグと他のモデル魚類のゲノム構造と全ゲノムレベルで比較することを目指した。 【結果】連鎖地図を構成するマーカー数を200個から800個に増やすことに成功した。その結果、連鎖地図に貼り付けられたゲノム配列長は合計393Mbとなり、全ゲノムの84%に達した。全ゲノムの60%の配列上に存在する予想遺伝子の位置情報を連鎖地図を利用して得た後、ミドリフグおよびメダカの遺伝子配置(ゲノム構造)と比較したところ、これらの魚類間では、驚くほどゲノム構造が類似していることが明らかとなり、2005年に申請者が発表した予想を証明することができた。次に、これらの魚種の祖先のゲノム構造を、最節約法で推定し、祖先型からフグおよびメダカのゲノムに至るまでの再構成事象(ゲノム構造のばらつきの幅)を推定した。現在、ブリ類、マダイ、ヒラメ類などのゲノム構造が、上記のばらつきの幅に収まるという仮説を立てており、来年度、その仮説の一部の実証を目指す。
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