研究概要 |
個体レベルの行動と伝染病に関するシミュレーションモデルにより水槽内での魚病の流行過程を再現し、従来の集団レベルの伝染病モデル(Kermack-McKendrickモデル)と比較した。平面上の閉鎖的な生息場を想定した正方形と丸型水槽に簡単なルールで個々に遊泳する仮想魚を考えた。仮想魚は2タイプの伝染病(SIとSIR)に罹るものとし、SIタイプの伝染病では仮想魚は未感染(S)と感染(I)、SIRタイプはKermack-McKendrickモデルと同様にさらに治癒(R)のいずれかの病状にあるとした。個体間の接触感染を再現するために毎時計算される魚の位置を碁盤の目のような格子に割当て,同時間に未感染魚が感染魚と同一格子に割当てられた場合に感染が成り立つとした。格子のサイズを変化させて感染力の指標とし、少数の感染魚が侵入した後の水槽内における流行の推移を数値的に観察した。乱数を用いたシミュレーションの結果、個体レベルの伝染病モデルは集団レベルのモデルよりも多様な伝播過程を再現できることが明らかになった。格子のサイズが小さいとき、接触感染の頻度は極めて低く、感染魚の指数的増加(流行)はほとんど起こらなかった。また、一定時間に感染した魚の累積数は水槽境界面の魚の行動ルールに大きく依存する結果となった。Kermack-McKendrickモデルと同等な流行が再現できるまで格子のサイズを大きくしても統計的に有意な適合は全試行回数の3割程度にとどまり,他の多くで流行開始の遅れなどが生じた。今回の結果により水槽での魚の独立した個別の動きが集団全体での感染・流行の不確実性を引き起こす一因となることが示唆された。
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