研究概要 |
平成20年度は18,19年度に行った個体ベースモデルシミュレーションと感染実験の解析を統合発展させ、「平均感染時間」を時間単位とした離散モデルを用いて伝染病の包括的な量的感染メカニズムの解明を行った。イクチオホヌス症同居感染実験結果の解析において平均感染時間を時間単位(感染世代)とした感染モデルを個体ベースモデルの数値実験に適用した。飼育魚を含め実際の生物では伝染病以外の成長や抵抗力の個体差など様々な生物学的要因が飼育環境下においても影響する。そのため今回は理想的な集団を想定した感染・流行シミュレーションを行った。感染ルールは最も単純な接触感染を仮定し、生息域内の個体(ホスト)の分布も二次元閉空間を毎時間ランダムに移動するとした。個体あたりの感染領域、感染期間とその分散を制御パラメータとして与えて、疑似乱数によるシミュレーションを行った。シミュレーションでは短期間流行、流行開始の遅れ、全個体感染の出現など様々な流行パターンが再現された。これらの数値結果をもとに集団レベルの感染流行解析に用いられる2つのモデルのパラメータ推定を行った。シミュレーションの時間ステップを基準にその1〜50倍の平均感染時間を世代単位として最小二乗法によりパラメータ推定し、さらに適合度検定を行った。世代時間を長く設定することでほとんど流行パターンはモデルに適合するが、数量的な情報は消失した。適正な世代時間を設定することで様々な感染症の平均的流行パターンを予測することができた。以上より、伝染病は一般にホストとなる生物の行動と病原体の感染力および感染時間に応じて様々な流行の時間スケールを持つことが明らかとなった。すなわち、ホストの生活史サイクルの基礎となる世代時間とは無関係に流行の世代時間が極端に短い場合、伝染病は突発的被害になる可能性が高く、集団維持のためには確率論的なリスク管理の必要姓が示唆された。
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