研究概要 |
(1) 燧灘東部の17ヶ所において5〜8月に月に1回、植物プランクトン,動物プランクトン(仔魚を含む),クラゲ類を採集するとともに,水温,塩分,溶存酸素濃度などの環境要因の測定を行った。また、得られたサンプルの炭素・窒素安定同位体比を分析した。燧灘東部では2008年は平年に比べ溶存酸素濃度が高く、貧酸素化していなかった。そしてミズクラゲの現存量が非常に少なく、ほとんど採集されなかった。これは貧酸素水塊付近にはミズクラゲが多いという2006年、2007年の結果と矛盾しない。すなわち、溶存酸素濃度の低い海域では仔魚は生残しにくいが,低酸素耐性の強いミズクラゲは弱った動物プランクトンや仔魚を捕食することで,貧酸素水域でも生残できると考えられる。そのため、近年のミズクラゲが増加は、沿岸域の貧酸素化等の環境悪化に起因している可能性が大きい。安定同位体比分析の結果、ミズクラゲは動物プランクトンを主な餌とする雑食性であると推定された。しかしながら、湾内の生態系を概観した場合、外洋でよく見られるような「植物プランクトン→動物プランクトン→クラゲや小型魚類」といった単純な構造にはなっておらず、途中で系が途切れたり複雑に入り組んでいたりすることが分かった。沿岸域で食物網をとらえる際には、より慎重な解析が必要である。 (2) 広島湾の観測について、2006年と2007年の結果を比較、検討した。その結果、海面水温,塩分ともに2006年のほうが2007年よりも有意に低かったことが分かった。クラゲ類の中ではミズクラゲが最も多く,質重量で89.7%を占めた。またミズクラゲの密度は2006年の方が高かった。一方,魚類仔魚の中ではカタクチイワシの仔魚が優先しており全仔魚個体数の58%を占めた。2007年よりも2006年の方が降水量が多かったため,広島湾奥部に注ぐ太田川の流量も多く,それにより栄養塩や有機物の流入量も2006年の方が多かった。それにより2006の方が海の生産が高く,餌生物が増加することによりミズクラゲも増加したと考えられる。
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