研究概要 |
本研究は潮汐と生物時計がサンゴ礁棲ベラ類ミツボシキュウセンの産卵周期に及ぼす影響を調べることを目的としている。本年度は沖縄本島北部のサンゴ礁でミツボシキュウセンを潮汐にあわせて採集し、生殖腺体指数(GSI)、卵巣組織像、及び卵巣におけるステロイドホルモン産生の変化をそれぞれ調べた。産卵盛期のミツボシキュウセンの卵巣組織像は潮汐によって変化し、下げ潮ではGSIが低くて卵母細胞が第二次もしくは第三次卵黄球期に、干潮ではGSIが比較的低くて卵母細胞が核移動期に、そして上げ潮ではGSIが比較的低くて卵母細胞が成熟期にあった。満潮で採集した魚の卵巣像には二つのタイプがあり、それらはGSIが高く、第二次卵黄球期の卵母細胞、排卵後濾胞、そして排卵された卵をもつものと、GSIが低くて第二次卵黄球期の卵母細胞と排卵後濾胞を持つものであった。それぞれの潮汐で採集した魚の卵巣片を生体外培養し、培養液中に分泌されたestradiol-17β(E2)及び17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(DHP)の濃度を調べた結果、E2は満潮で高く、DHPは干潮から満潮に向かって高くなる傾向があった。ミツボシキュウセンは卵黄形成途上の卵母細胞の一群を常に卵巣内に有し、その卵群が昼間の満潮に向けて成熟・排卵して、産卵に至ることが示唆された。 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の添加・非添加で卵巣片を生体外培養して成熟の進行を組織学的に観察した結果、培養開始時に核移動期に達している卵母細胞はhCG非添加でも成熟が進行するが、培養開始時に第三次卵黄球期以前にある卵母細胞ではその後の成熟の進行は見られなかった。核移動期の卵母細胞が最初に見られたのは干潮であることから、卵母細胞は下げ潮から干潮(産卵6〜12時間前)で受けるGTHサージによって最終成熟への引き金が引かれると考えられた。
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