研究概要 |
サンゴ礁に広く生息するミツボシキュウセンを潮汐にあわせて採集し、卵巣組織像と卵巣におけるステロイドホルモン産生の変化をそれぞれ調べた。産卵期の午前中(09:00)に採集した魚の卵巣内の卵母細胞の発達は潮汐によって変化し、下げ潮では第二次もしくは第三次卵黄球期に、干潮では核移動期に、そして上げ潮では成熟期にあった。満潮では第二次卵黄球期以下の卵母細胞に加えて排卵後濾胞や排卵された卵をもつ個体があった。ミツボシキュウセンは卵巣内の最も発達した卵群が昼間の満潮に向けて成熟・排卵して、産卵に至ることが示唆された。生体外培養した卵巣片から分泌されたestradiol-17β (E2)、17α, 20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one (DHP)及び17α, 20β, 21-trihydroxy-4-pregnen-3-one (20β-S)の濃度を酵素免疫測定法で調べた結果、E2は下げ潮と満潮で高く、DHP及び20β-Sは干潮と上げ潮で満潮に高くなった。この結果から産卵後に卵巣内の卵母細胞は活発な卵黄形成を行い、産卵が近づく干潮から上げ潮にかけて卵成熟が急速に進行することが示唆された。 異なる時間帯の満潮に採集した卵巣を組織学的に観察した結果、午前から昼にかけての満潮(09:00と12:00)では産卵前の様相を呈し成熟期にある卵母細胞が観察されたが、午後の満潮(14:00と17:00)では産卵後の卵巣状態を示すものが多かった。潜砂した魚が卵成熟を開始する環境刺激が夜の前半と後半では異なる可能性が考えられ、夜間の前半では魚は潮汐性の刺激が日周性の刺激よりも先に起こるため潮汐性が明確に現れて卵発達が進行するのに対し、夜間の後半では潮汐性の刺激が日周性の刺激よりも後に起こるため卵発達の進行は日周性が優先されるのかもしれない。
|