研究概要 |
本研究ではバイオメカニクス(生体力学)研究を通して,クロマグロの遊泳能力と遊泳メカニズムそして本種の遊泳に対する形態機能を解明することを目指す。 クロマグロの胸鰭は自身の水中重量を支持するのに必要な揚力発生の役割を果たす重要な器官であるといわれている。本研究ではこの胸鰭の開度を永久磁石の磁力を利用することによって小型記録計に自動記録する装置を開発し,装置の動作実証試験に成功した。これは,センサー部を体側に装着して強力な永久磁石を胸鰭側面に張り付け,胸鰭開度の大きさによってセンサーに記録される磁力強度が変化する仕組みとなっている。実海域実験の結果低速で遊泳するときには頻繁に胸鰭を大きく拡げて遊泳する様子が記録された。また,本種の代謝率の計測から本種の移動コストを推定し,計測値からエネルギー変換効率を見積もるための生体実験を実施した。密閉した回流水槽を用いて流速を変化できる環境を作り出し,本種幼魚(52-56日令)を自発遊泳させたときの酸素消費率を計測した。その結果単位時間当たりの酸素消費量は68-178mg/hで単位重量当たりの移動エネルギーコストに換算すると15000±4800J/kg/kmとなった。CFD(計算流体力学)に基づいて,本種遊泳時の遊泳時抵抗から推進力を推定し,この算定値から本種が外部(水)に対してした仕事(エネルギー)を見積もり,エネルギーコストを推定したところ,およそ300J/kg/kmと推定された。これは酸素消費量から見積もられた移動エネルギーコストの2%程度でしかなく,幼魚期では代謝エネルギーのほとんどが体温維持に使用されていることを示唆していると考えられた。また,この結果は本種の遊泳運動に外部に対して同程度のエネルギーロスしか伴わないと仮定すれば,10BL/s(体長倍速度)以上の突進遊泳できる能力を持つことを生体力学的にも示しているといえる。
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