研究概要 |
本研究ではバイオメカニクス(生体力学)研究を通して,クロマグロの遊泳能力と遊泳メカニズムそして本種の遊泳に対する形態機能を解明することを目的としている。3次元形態計測から本種のデジタル形態モデルを作製し,これを用いたCFD(数値流体力学)解析から本種の遊泳時流体力学的特性を明らかにした。成長に伴って魚体の抵抗係数は減少する傾向を示した。本種の遊泳時抵抗はおもに尾鰭の振動振幅の大きさに依存し,振動周波数はほとんど影響しないことがわかった。水平遊泳時の重心回りのモーメント推定から本種は低速遊泳時ではわずかに頭上げの姿勢で遊泳する必要があること,また,エネルギー効率を優先した遊泳では深い角度でグライドし,浅い角度で上昇する遊泳式が有利であることを理論で導いた。この推定結果は遊泳姿勢と尾鰭振動を記録する小型記録計で実海域計測されたフィールドデータによって裏付けられた。負の浮力である本種は自重を支持するために,胸鰭は揚力発生の重要な機能を果たしていると考えられていたが,CFD解析結果からも大きな揚力を発生できる器官であることが確認された。実際の個体で確認するため,磁力を用いて胸鰭の開度を記録する小型記録計を開発し,実海域実験を実施した。低速で遊泳するときには頻繁に胸鰭を大きく拡げ,揚力を獲得していることが明らかとなった。本種幼魚の遊泳時に計測される代謝エネルギーから遊泳時のエネルギー変換効率を見積もるため回流水槽を用いた生体実験を実施した。その結果,本種単位重量当たりの移動エネルギーコストに換算すると平均15000J/kg/kmであった。これに対し,CFDに基づいて,算出された遊泳に必要な仕事(エネルギー)は移動エネルギーコストの2-4%程度でしかなく,幼魚期では代謝エネルギーのほとんどが体温維持に使用されていることが示唆された。
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