カタクチイワシなど小型浮魚類の資源変動は、漁獲の影響よりも地球的な気候変動に大きく左右されると考えられているが、その一方で未成魚までの減耗に関与する最大の要因は他の動物による被食であるとされており、気候変動による餌料環境変動の影響を受ける仔稚魚の成育状況と、最大の減耗要因である被食減耗との間には、密接な関連があると想像される。本研究では種苗生産されたカタクチイワシ仔稚魚を用いて、実験的に体長・成長速度・成長履歴と被食回避能力の差違との因果関係について解明を進めた。 1)カタクチイワシ幼魚期の耐久遊泳速度計測 カタクチイワシ幼魚を材料に、4成長段階で、水路長1mの小型回流水槽を用い、5〜7尾を同時に収容し水温17〜27℃における60分間耐久遊泳速度を測定した。60分間の計測を行い各個体の脱落時間を求めた後、体長・体重・内臓重量・胃内容物重量を計測した。60分間耐久遊泳速度は体長や水温等により変化したが、耐久遊泳時間は体長換算速度の増加と共に指数的に減少し、胃内容物重量比の増加に伴ってわずかではあるが直線的に減少していた。水温に対しては21.4℃を最大とする緩やかな二次曲線を示し、成長に伴ってわずかに減少していた。これらの結果から、カタクチイワシ幼魚の巡航遊泳能力は水温・摂餌状況により変化すると考えられた。 2)群内位置選別採集 実験水槽内で群の相対位置や流速に対する遊泳位置を特定して採集する定量採集具を作成し、カタクチイワシ幼魚を材料に群の前・中・後部を選別して採集する実験を行った。選別採集された個体で耳石日周輪情報を用いた成長速度解析を行った結果、群内位置と成長速度には明瞭な関係は認められなかった。 以上の結果から、成長速度の違いにより逃避能力が変化する結果は得られなかったが、摂餌状態や内臓脂肪量等と耐久遊泳速度戸の関係が認められ、個体の生理状態の重要性が示唆される結果となった。
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