本年度は、「ハコフグの喫食による特異的食中毒とその原因毒の諸性状」の研究を来年度さらに進める目的で、主としてハコフグ中毒発生地域におけるハコフグ科魚類の毒性を詳細に調べた。2004年5月に宮崎県延岡市沿岸で、2004年11、12月、2005年1〜4、6月、2006年3月に徳島県牟岐町沿岸でそれぞれ採捕したハコフグOstraction cubicus、ウミスズメLactoria diaphana、2003年冬期、2004年11月、2004年冬期に長崎県福江市沿岸で、2004年11月〜2005年7月に山口県下関市沿岸でそれぞれ採捕したハコフグを試料とした。試料は、筋肉、肝臓および内臓(肝臓を除く)に分け、酢酸酸性エタノールで抽出し、脱脂後、水画分をマウス腹腔内に投与して毒性を調べるとともに、溶血活性試験を行った。その結果、宮崎県産ハコフグ、ウミスズメ、徳島県産ハコフグ、ウミスズメ、長崎県産および山口県産ハコフグの全てまたは一部からマウスに対する急性または遅延性致死活性が認められた。有毒個体のうち、ハコフグ、ウミスズメともに内臓からの毒性の検出率が最も高く、それぞれ33.0%と33.3%であり、次いで筋肉(12.5%、5.5%)と肝臓(7.1%、5.5%)の順であった。ハコフグの筋肉6検体、肝臓1検体と内臓19検体、ウミスズメの筋肉と肝臓それぞれ1検体と内臓4検体から調製した粗抽出液に致死時間の短いマウス毒性が検出された。一方、ハコフグの筋肉9検体、肝臓7検体と内臓18検体およびウミスズメの内臓2検体の粗抽出液はマウスに対して痙攣や嗜睡、衰弱を誘起し、18〜36時間でマウスを死亡させた。他方、溶血活性試験により一部の有毒試料から遅延性の溶血活性が認められた。従って、ハコフグ科魚類には、複数の毒成分が存在し、その中に遅延性溶血活性を有する物質の存在が示唆された。一方、遅延性溶血活性はパリトキシン(PTX)標準品のそれと類似しており、本毒成分は、PTX様物質であると推察された。
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