研究概要 |
最近,西日本を中心にハコフグ科魚類の喫食による食中毒が頻発している。本食中毒の症状はパリトキシン(Palytoxin:PTX)中毒の症状に酷似しており、食品衛生学上、大きな問題となっている。そこでハコフグの毒化機構の解明の一環として、PTXの起源生物である有毒なOstreopsis属渦鞭毛藻の分布を調査するとともに、有毒種については、その培養株の毒産生能を調べた。宮崎県、徳島県、長崎県、高知県沿岸より大型海藻(約200g)を採取し、20-100μm画分の付着生物等を採取した。付着生物は、光学顕微鏡を用いて観察し、Ostreopsis属の有無を調べた。宮崎県および長崎県産Ostreopsis属の天然の単一株については、ESM培地を用い、培養温度20℃、光強度を40μmo1 photon/m^2/s^1、明暗周期を12時間明/12時間暗の条件下で培養を行った。次に、得られた培養藻体から調製した試験液をマウス毒性試験および溶血活性試験に供した。宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属の培養藻体からマウス毒性(いずれも1.0×10^-4MU/cell)が検出された。さらに、Ostreopsis属の培養藻体はマウスおよびヒト赤血球に対して遅延性の溶血活性を引き起こすとともに、後者の活性は、g-ストロファンチンによりほぼ完全に抑制された。これら培養株の毒の性状は、既報のPTX様物質と類似しており、宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属はPTX様物質産生能を有していることが確認された。以上の結果から、食中毒を引き起こしたハコフグ科魚類とPTX様物質の産生能を持つOstreopsis属は同地域に存在しており、ハコフグ科魚類は,Ostreopsis属渦鞭毛藻を起源生物として食物連鎖により、PTX様物質を蓄積する可能性が示唆された。
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