海産由来の重要な食品成分でありヒト脳内主要高度不飽和脂肪酸でもあるドコサヘキサエン酸、並びに各種プロスタノイド関連の高度不飽和脂肪酸であるアラキドン酸は生体内では細胞膜リン脂質に存在し膜機能の調節に重要な役割を果たしているが、虚血性脳(眼)疾患などの病態発症時には、速やかにリン脂質より切り出されて遊離の脂肪酸或いは様々な代謝体となり、新たな生理活性を発現すると考えられている。そこで本研究では、高度不飽和脂肪酸とその代謝体を調製し、グルタミン酸をはじめとする各種神経伝達物質の受容体応答に対する影響を確認することによって、高度不飽和脂肪酸並びにその代謝体の薬理的な作用、栄養学的な役割について明らかにするものである。 本年度はドコサヘキサエン酸からの各種リポキシゲナーゼによる代謝体の同定・調製、並びにドコサヘキサエン酸、アラキドン酸などの各種脂肪酸のATP受容体応答について検討した。ATP受容体は痛みの受容体としてイオンチャネル型(P2X)とGタンパク共役型(P2Y)が知られているが、ドコサヘキサエン酸は節状神経節神経細胞のP2X受容体に影響してATPによって誘発される内向き電流を減弱させることが示され、その作用は脱感作を早めることによると考えられた。また、他の脂肪酸での検討では、アラキドン酸において同様の作用が観察されたものの、オレイン酸やパルミチン酸などの一価の不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸ではその作用は弱かった。今後、ATP受容体におけるドコサヘキサエン酸やアラキドン酸の役割について詳細な検討が必要である。
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