研究概要 |
フードシステムを取り巻く与件の変化によってシステムは揺らぎを繰り返し、新たなシステムへと再編されるが,この過程を「自己組織化過程」とよぶことができる。これはゲーム理論的にはナッシュ均衡への収束過程であり,フードシステムを形成する各主体のとる戦略が相互に補完的になっている点に特徴がある。 中・東欧の旧社会主義移行経済諸国のフードシステムは、民主化以前の計画経済から以後の市場経済へとその与件が大きく変化し、フードシステムも新たな組織化を余儀なくされた。そこは各国における農業の生産構造、土地所有構造、就業構造、消費構造などに規定された多様性な展開が見られる。これは各国の歴史の個性に起因するものである。以上,戦略的な補完性,歴史的経路依存性の2点に注目する必要性から,われわれの研究では比較制度論の手法をとることが有効であることを示した。 社会主義体制下においても小規模土地所有・利用が認められていたポーランドでは、民主化以降農業生産の規模拡大が進まず、国内の経済発展に伴って西欧から進出してきた大手スーパーチェーンに対応できていない。しかし近年ごく少数の農家が土地を集積し、スーパーの物流センターに農産物を出荷する事例が見られるようになった。 他方、ルーマニアにおいては、民主化以降にブカレストに青果物を供給するシステムを近代化させるため、周辺の青果物集積所および市内に卸売市場PGBを政府が整備した。しかし市内の量販店および小売店は卸売を必要とする段階になく、また逆に市場は西欧から進出してきたスーパーマーケットチェーンに対応できる規模ではない。しかし市内には国内スーパーマーケットチェーンに対応する物流拠点が市内に民間資本によって設立され、ルーマニア国内のハブとなっている。ルーマニア国内の食品流通は、前近代的小規模流通と近代的大規模流通が併存しており、今後の展開に注視する必要がある。
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