今年度は、研究蓄積が極めて少なく、かつ栄養不良の状態にある人口比率が高いとされるバングラデシュと南アフリカの低所得世帯を事例として、ソーシャル・キャピタルの多寡が貧困世帯の食料摂取状況に及ぼす影響について分析した。個票データを用いた定量分析の結果、フードセキュリティの水準が低い可能性が高いのは、次のような条件をより多く満たす世帯であると考えられる。1女性が世帯主である。2世帯主の教育水準が低い。3所得水準が低い。4世帯貯金額が低い。5家族員数が多い。6食料生産を行うことができる土地等を所有していない、あるいは家畜を飼育していない。7困窮時に「親戚のネットワーク」や「隣人のネットワーク」を利用することができない、あるいは「参加」の概念を用いて計測したソーシャル・キャピタルの水準が低い。8所得水準が低い世帯ほど、経済ショックによってフードセキュリティの水準は低くなる。反対に、ポジティブな経済環境の変化等があった場合には、フードセキュリティの水準は高まる。 こういった分析結果を踏まえると、必要な食料の確保に迫られた低所得世帯が、既存の隣人や親戚ネットワークあるいはそれと同様な機能を有する相互扶助的な組織・団体・制度-例えば、途上国の貧困軽減に一定の成果をあげているグラミン銀行方式のマイクロ・ファイナンス-に加入することによって、所得向上と同時に緊急時に食料購入費を工面できるようなプログラムの積極的推進が必要であろう。また、食料品価格が高騰した場合に備えて、米や粉ミルクなど貯蔵性のある食品の共同備蓄なども考えられる。途上国における食料摂取状況の改善という政策目標を想定したときに、ターゲットとなる食料入手において不利な立場にある低所得世帯を広くカバーするような既存の組織やネットワークへの介入が効率的であると考えられる。
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