今年度は、研究蓄積がいまだ少ないわが国のホームレスと貧富の格差が激しいといわれる南アフリカ共和国の低所得世帯を事例として、貧困層の食料摂取状況に影響を及ぼす諸要因について検討した。それぞれの分析結果は次の通りである。 1 ホームレスのフードセキュリティと社会的ネットワーク ホームレス人口は全国第7位であるものの、大都市圏の中ではその増加率が最も高い福岡県北九州市を調査地として、ホームレスの食料摂取状況と社会的ネットワークとの関連を検討した。その結果、1)「移動型」のネットワークは「開放的」かつ相互間の関係が「希薄」であり、純粋公共財的性恪が強いが、それから得られる便益は少ないこと、2)「定住型」のネットワークは成員相互間の関係が「濃密」かつ非成員に「閉鎖的」であり、クラブ財的性格がより強い(非成員には、やや排他的な性格を有する)がゆえに、ネットワークに参加し得るものはより多くの便益を得ていること、が明らかとなった。 2 南アフリカ共和国における家畜飼養とフードセキュリティ 国際食料政策研究所(IFPRI)が1993年に南アフリカ共和国において実施した調査の個票データを使用し、分位点回帰を用いてフードセキュリティに関する定量分析を行った結果、家畜飼養頭数が多いほど1人当たり食料支出額は多く、とりわけ家畜飼養は最貧層のフードセキュリティ向上に大きく寄与することが明らかとなった。また、操作変数法によるプロビットモデルを用いて健康状態について分析した結果、家畜飼養は健康状態の悪化を助長しないことが確認できた。こういった分析結果を総じてみると、対象地域では、世帯レベルでのフードセキュリティの向上に、家畜飼養の促進が有効であるといえる。
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