研究概要 |
平成20年度では,前年度インド,タミル・ナドゥ州コインバトールの50戸の養蚕生産費調査のデータクリーニングを行うとともに,データ不備による再調査を実施した.また,研究協力者である中国浙江大学の顧国達教授を招聘し,大阪府立大学・桃山学院大学および衣笠会・繊維研究所にて,中国経済および蚕糸業の研究者を交えて,本研究の取りまとめのための研究会を実施した. 中国では,2000年以降「東桑西移」政策の下で,養蚕産地の東部沿海地域から西部内陸地域へのシフトが見られるようになったが,実際には産地移動というよりも「東部沿海地域=原料繭需要地域」「西部内陸部地域=原料繭供給地域」という原料繭の需給関係が明確化したと言える.旧主要養蚕産地における生産規模の維持や広西自治区における急成長は,中国を「シルク大国」であり続けることを可能にしたという意義を有しており,さらに,両地域における低所得農村地域の農民所得を向上させるという意義をも見出すことが出来る. 一方,中国との競争に直面しているインドでは,JICAの技術協力を受けて二化性養蚕の技術開発・普及を図っており,近年,二化性養蚕が徐々に増加してきた.しかしながら,中国の繭生産費調査結果とインドの養蚕農家経済調査結果を,名目為替レートを用いて比較すると,インドの繭生産費が中国よりも高いことが明らかとなった.その背景には,近年の中国の養蚕技術の発展と,インドの生産性の低さ及び固定資本(蚕室)の減価償却費にあると考えられる.
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