研究概要 |
本研究は,都市化や生活形態の変化などといった,いわゆる人間活動が,最終的に生態系や地域の水環境に対してどのような影響を持つのかといった,地域全体を有機的に表現するシステムの構築を目指している.昨年度までに,水環境に関する基礎データをもとに簡易なシステムダイナミクスモデルを作成するとともに,生物相を組み入れるためのエネルギー型の生態系モデル,地理情報を組み入れた物理的水文流出モデル,人口の移動や経済活動を含む社会モデルなどの構築を検討していたが,基礎データが不十分であることから,現地における調査を中心に研究を進めた.データ収集は年間20回を超える生態および水環境調査により行い,農業排水路内での生物相の変動がかなり明らかとなってきた.結果をまとめると,平成11年度より進められてきた水路改修により,メダカやカムルチーなどの産卵に植生が必要な魚類が減少し,モツゴやカダヤシ,コウライモロコなどの植生を必要としない魚類が増加するとともに,下流河川から大量のタイリクバラタナゴが侵入するといった魚類を中心とした生物種構成の変化が見られること,生物相の遷移は3から4年である程度の収束を見せること,魚溜工などの自然配慮型の工法が魚類の保全に効果があることなどが明らかとなってきた.また,水理環境は大幅に変化するが,水質などには大きな変化を与えていないことや,DNA解析を用いた分析により,改修が魚類の移動には大きな影響を与えていないこと,産卵適地が失われたフナなどの魚類が流れてきた藻類やゴミなどに産卵することにより繁殖を継続していることについても知見を得た.これらのデータおよび解析結果については,農業農村工学会論文集および日本雨水資源化学会誌に投稿中である.今後は,これらの生態系データおよび水路内の水環境と地域の情報とをうまく関連させることのできるモデルの構築が課題となる.
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