本研究では「人の生活・生命を支える安全で安心な作物の生産」を農業の目的と考え、そのため、(1)ヒトの栄養所要量を基準とした食物摂取量に基づいた農地面積および必要水量の算出、(2)雨水利用小規模節水灌漑システムを利用した水および土地資源の有効利用の検討、(3)循環システムの運営に必要な肥料成分の補給やエネルギー使用量など物質・エネルギー収支の観点からの評価を行う。 本年は主として畑地における雨水利用小規模節水灌漑システムにおける水収支について検討した。 1.雨水利用節水灌漑システムにおける降雨の水収支の検討 農業循環システムモデルに基づいて算出した用水量および作物・栽培面積を使用し、雨水利用節水灌漑システムにおける水収支についての検討結果から水使用量を推算し、実際の試験結果から有効性を検討した。その結果では、過去30年間の降雨記録から、一部の干ばつ年以外では十分に必要水量をまかなうことが可能であった。さらに不足する時期にはより節水灌漑による対応を提案した。 2.ハウスでの節水灌漑の可能性 ハウスの陸稲に対して、節水灌漑のための灌漑水量を以下の3段階に設計し、灌漑試験を実施した。 その結果は、以下のとおりである。 (1)標準区:消費水量相当量の灌漑により、土壌水分量は十分に供給され、陸稲の生育、収量とも多い結果であった。 (2)中間区:標準区の75%の灌漑水量区では、消費水量は計画用水量に近似し、収量についても標準区を遜色が無く、陸稲に必要な水分が供給された。 (3)節水区:標準区の50%の灌漑水量区では、消費水量が少なく、水分不足が発生した。生育・収量からみて他の2つの区に比べて非常に低い結果であった。 この結果から標準灌漑水量の75%(3/4)水量で灌漑効果を維持しつつ用水の節減につながるものと判断される。
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