本研究の目的は農村水域における魚類個体群の保全に向けて、分子マーカーの一つであるマイクロサテライトDNAにより個体群間の「ネットワーク=遺伝的交流」や遺伝的集団構造の実態を明らかにすることである。 平成18年度の実績は次の1〜3である。 1.サンプル採集:千葉県大栄町の下田川流域、茨城県かすみがうら市の恋瀬川流域等において、複数の農業水路からドジョウ、タモロコ、ホトケドジョウ等の流域の主要生息種を採捕した。魚体計測後、採捕各個体を99.5%エタノールで固定し、一部の個体については尾鰭切片から50〜200ngのゲノムDNAを抽出した。 2.マイクロサテライトDNAマーカーの開発:タモロコについてマイクロサテライトのマーカー開発を実施した。(1)ゲノムDNAの断片化、(2)マイクロサテライト領域を含むDNA断片のスクリーニング、(3)スクリーニングされたDNA断片のサブクローニングと形質転換、(4)マイクロサテライト領域の塩基配列決定とPCRプライマーの設計、(5)PCRプライマーの有効性とマーカーの多型特性チェックを行った。合計14個の有用マーカーを開発し、それらを国際塩基配列データベースGenBankに公開登録した(登録番号:AB264587〜AB264600)。 3.ドジョウ個体群の遺伝的特性の解明:ドジョウについては既に30個程度のマイクロサテライトマーカーが公開されている。これらの中から3つのマーカーを利用して、千葉県下田川流域のドジョウ個体群を解析した。その結果、対象個体群は2〜19個の対立遺伝子をもち、その頻度によるヘテロ接合度の理論値は0.41〜0.56になることを推定した。個体群間の遺伝的分化尺度(Fst)は0〜0.03となり、各群間の遺伝的分化はほとんど認められないものの、樹形図構造からドジョウは3群に大別されることを明らかにした。
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