本研究の目的は農村水域における魚類個体群の保全に向けて、ミトコンドリア及びマイクロサテライトDNAを利用し、個体群間の「ネットワーク=遺伝的交流」や遺伝的集団構造の実態を明らかにすることである。主な成果は次のとおりである。 1.国内ドジョウの遺伝特性を解明するため、ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子配列による系統解析を行った。全国124市町村で採捕された457個体の配列には154ハプロタイプが存在し、構築された系統樹から国内には4つの遺伝的集団が存在することを明らかにした。2.谷津田域におけるドジョウ個体群の遺伝的構造の解明として、千葉県下田川流域を対象に、8つのマイクロサテライト遺伝子座による集団解析を実施した。流域内のドジョウ個体群はメンデル遺伝にしたがった自由交配集団と推定され(平均対立遺伝子数 : 3.9〜9.0、平均へテロ接合度の理論値 : 0.463〜0.628)、農業水路とそれに合流する河川間の一部においてFst=0.161の遺伝的分化が確認された。3.小貝川上流域のおけるホトケドジョウを分析するための、マイクロサテライトDNA遺伝子座の選択としの予備解析を行った。対象集団の遺伝分析には12遺伝子座の利用が可能であり、どの集団も同程度の遺伝的多様性レベルをもっていた(平均対立遺伝子数 : 4.4〜5.3、平均へテロ接合度の理論値 : 0.581〜0.657)。集団の遺伝特性は小貝川-荒川間で異なることが判明した(Fst=0.147)。4.トミヨ属雄物型(GenBank照明番号 : AB300827〜AB300851)、ホトケドジョウ(AB286032〜AB286048)、タモロコ(AB264587〜AB264600)についてのマイクロサテライトDNAマーカーを開発し、それぞれが利用可能であることを検証した。
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