研究概要 |
試料は、内部の気体の濃度勾配が無視できかつ呼吸活性の高いホウレンソウとし、個体差による影響を小さくするために、一定条件で養液栽培したものを用いた。環境制御型密閉式呼吸速度計測システム(川越ら;農機誌,67(3),80-89,2005)に低酸素に対応できるマスフローコントローラを接続し、またガスクロマトグラフにFIDを追加してエチレン濃度測定を可能として、設定温度20℃でいくつかの低酸素濃度一定条件下で72時間、ホウレンソウ20株(約400g)の呼吸速度およびエチレン生成速度を計測した。また、換気時に、検知管により呼吸計測チャンバから排出される気体内のエタノールおよびアセトアルデヒド濃度を測定し、実験終了後に試料をホモジナイズして、試料内部に含まれるエタノールおよびアセトアルデヒド濃度を測定した。実験中は、デジタルカメラによりインターバル撮影を行い、呼吸商が増大後、試料が急激にしおれている現象の観察を行った。その結果、呼吸商から判断された嫌気呼吸の症状が現れない下限の酸素濃度(限界酸素濃度と定義)は、約0.1%であることが分かった。また、呼吸商が増大し、明らかに嫌気呼吸に陥っている場合においても、検知管による雰囲気中の嫌気呼吸産物は検出できず、今後は高感度な分析が必要と考えられる。呼吸商から求めた限界酸素濃度よりも高い酸素濃度1.0%においても、試料をホモジナイズした液からアセトアルデヒドが検出され、呼吸商の増大がみられる前に嫌気呼吸が起こっていることが分かった。インターバル撮影の結果、急激なしおれが発生するのは、呼吸商が2を越えてピークを迎え、再び2以下となったあたりからであり、アセトアルデヒドが生成されても呼吸商が1.5程度までしか上昇しない場合は、そのような現象がみられなかった。このことから、嫌気呼吸産物がかなり蓄積した後に、嫌気呼吸による大きな障害が外観に現れるものと考えられた。エチレン生成については、いずれの酸素濃度においても認められなかった。
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