研究概要 |
1.南九州の低標高地における矮性(DL)ネピアグラスの地域適応性を,宮崎県宮崎市,熊本県水俣市,五和町,合志町および長崎県有明町の放牧あるいは採草利用条件下で,造成の1〜3年目に比較した。DLネピアグラスの越冬率は概ね90%以上であったが,合志町では,2003〜2004年に17%,2005〜2006年に10%と低く,これは最低気温の極値が-7℃以下と低いことが原因と考えられた。また,連続放牧利用を行った場合には越冬率が低下し,2004〜2005年の五和町では73%,2005〜2006年の水俣市では9%であった。したがって,1)DLネピアグラスの越冬率は越冬期間の最低気温に大きく影響を受け,最低気温の極値が-6.2℃を下回ると越冬率が急減すること,2)連続放牧利用では同一気温条件下の輪換放牧利用に比して越冬率が大きく低下することが明らかとなった。このことから,DLネピアグラスの多年利用可能な地域とその利用形態が明らかとなった(石井ら2006)。 2.5aのDL草地を6区(計0.3ha)造成し,肉用繁殖育成牛3頭を,2003〜2006年の4カ年の6月下旬(7月上旬)〜10月下旬(11月上旬)までの約120日間放牧利用できた。この全期間の日増体量はそれぞれ,0.44,0.43,0.56,0.21kg/日であった。放牧前の草量と被食量はほぼ連動したが,放牧前の草量の年度間変動(765〜1830gDM/m^2)に比べて,被食量の変動(632〜1014gDM/m^2)は縮小した。周期別の日増体量は,何れも初回では低く,特に乳用種で低くなったが,これは被食量の低さとは完全には連動しなかった。年間合計の草量と被食量との間には正の相関関係があり,初回放牧開始時の草量確保が,年間を通じた被食量を高めるために必須であった。したがって,DL-追播IR草地は,造成2年目以降年間約130〜160日間輪換放牧可能で,初回放牧開始時のDLの草高を約110cmに保てば,造成後少なくとも5ヵ年間,家畜増体性(約0.5kg/日)と利用率(草量に対する被食量の比率が約50%)の高い草地を維持できるが,初回放牧時における家畜生体重の維持と草地利用率の向上が課題であることが明らかとなった(石井ら2007)。
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