研究概要 |
検討内容(1):洗浄処理後の黒毛和種精子をBO-Hepes液に浮遊させた後(精子濃度:5.0×10^8精子/ml),cAMPアナログ(cBiMPs)を様々な濃度で添加し,38.5℃で1〜3時間インキュベートしたところ,0.1mM cBiMps添加およびインキュベーション3時間が好適で,20〜48%の精子で超活性化運動が誘起された。しかしcBiMps無添加区ではいずれのインキュベーション時間においても超活性化運動を示す精子はほとんど認められなかった。以上の結果から,ブタ精子に対して良好であったのとほぼ同じ処理条件で黒毛和種精子に超活性化運動を誘起できることが明らかとなった。なおこの点は,ウシ精子での超活性化運動の制御にカルシウムシグナリングが主に機能し,cAMPシグナリングは関与しないとするSuarezらの仮説とは一致しない。従って上述の結果は既存の仮説とは異なり,黒毛和種(ウシ)精子に超活性化運動を制御するcAMPシグナリングが存在することを示唆している。 検討内容(2)および(3):超活性化運動の誘起に好適であった条件で処理した黒毛和種精子をウエスタンブロッティングに供してタンパク質チロシンリン酸化状態を調べたところ,少なくとも9種類のタンパク質でcAMP依存的なチロシンリン酸化反応が認められた。しかし,同一条件で処理されたブタ精子での結果に比べてリン酸化の程度はかなり低レベルであった。また,ブタ精子でのタンパク質チロシンリン酸化に機能するチロシンキナーゼSYKについて,黒毛和種精子ではその活性化は検出できなかった。以上の結果は,黒毛和種での超活性化運動にSYK以外のチロシンキナーゼが関与することを指摘している。なお,現在は黒毛和種精子で機能的なチロシンキナーゼを特定するため,別の非受容体型チロシンキナーゼ(FAKなど)についての検討を進めている。
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